談話室『和太刀』

~立ち廻りから得られる身体のお得情報!~

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『雑!!演殺陣人達(ざっつ!!えんたてめんつ)』 32:平家琵琶のH先生の事

『雑!!演殺陣人達(ざっつ!!えんたてめんつ)』

 このコーナーは、和太刀主宰者・清水大輔の子役から始まり、
殺陣師になり、現在に至るまでに出会った人や出来事をかき集めて
バラバラに(思いつくままに)脱ぎ散らかしたエッセイ風の独白文です。






32:平家琵琶のH先生の事


前回(雑!!演殺陣人達31)の続き。



数々の試練を乗り越えて、やがて地域全体のイベントで立ち廻りをやる事になった私達。
地域全体のイベントとは、『平家の里』と呼ばれる、平家の落人(おちうど)達が住んでいたと言われている古い集落の中で、あの有名な『平敦盛(たいらのあつもり)と熊谷直実(くまがいなおざね)』の一対一の対決を中心に立ち廻りのショーを行うというものだった。

しかも、立ち廻りのバック・ミュージックとして、今度はCDラジカセから聞こえてくる音楽ではなく、本物の平家琵琶の伴奏付きであった。
この平家琵琶の伴奏をして下さった先生は地元の方ではなく、私達と同じく東京の方、しかも私の住んでいる場所から電車で10分程の所にある駅の近くに住んでいらしたので少々驚いた。



本番まで一ヶ月間、一度東京に戻り、中身の稽古をする事になったので、稽古に入る前に一度琵琶の先生と打ち合わせをしようと、先生のお宅にお邪魔をした。

このH先生はその世界の第一人者。とても和やかな女性でいながら、
和やかさ中にピリッとした厳しさを感じさせる方だった。

打ち合わせに入ろうとした時、先生が驚きの言葉を発せられた。

「合わせ稽古なんかしなくても良いから。当日はあなた達がお好きなようにおやりなさい。私はそれを眺めながら『敦盛』のくだりをやらせて頂くわ。」

と。つまりアドリブ的なもので良いとおっしゃるのだ。

「イヤ、しかし先生、私達の立ち廻りが何分くらいで終わるのか、おわかりにならない状態で大丈夫なんでしょうか。」

と、私。しかしH先生は、

「大丈夫。何とかなるわよ。あなた達を私の演奏に縛りつけたくないのよ。でも当日はお互いに、熊谷直実と平敦盛のためにやるのよ。それから平家の落人の霊魂のためにね。そうすれば最後は自然と合うものよ。」

と、落ち着き払っておっしゃった。

 そんなものかと思ったが、本当に大丈夫なんだろうかという一抹の不安はぬぐい去れなかったが、先生の説得力のあるお言葉に甘え、とにかくそこから一カ月は好きに、そして必死に作品づくりに取りかかった。



そして一カ月後、イベント当日。

私達がショーを行う特設ステージの前には、その地域の村人を中心にしたお客様が5~600人。
何と村人の方々全員が、甲冑に兜(かぶと)までかぶり、まさに平家の武者のような姿で茣蓙(ござ)の上にドッカリと腰をおろしていた。

 その圧巻の光景は、自然と私達を高揚させた。H先生は私達の立ち廻りをやるスペースの片隅に座布団を一枚敷き、落ち着いた様子で琵琶を構えていた。いよいよ本番開始。

 ショーはまず私達メンバー10人により、源平合戦をイメージした乱戦で幕を上げた。それに合わせ、H先生が琵琶をかき鳴らした。

 あたりの空気は自然と緊張感に包まれた。

 そして…。いよいよ私の出番となった。私が演ずるは何を隠そう熊谷直実。平敦盛は後輩の女の子がつとめた。先に敦盛が舞台上に出て、それを追いかける形で舞台に出た私。進行はここから有名な直実・敦盛の対決(少年武者・平敦盛の顔を戦いの中で見た直実は、自分の息子に背格好が似ている敦盛を見て衝撃を受け、躊躇するが、やがて追い付く他の武者に少年の首を斬らせるくらいならば、せめて自分がと迷いの挙句に敦盛を斬る。そしてこれをキッカケに仏門に入る。)にのっとり進んでいく。

 すると私達の動作に合わせ、初見なのにまるで稽古を見ていて下さった様にH先生が琵琶を演奏し、謡い(うたい)を付けて下さった。これには本番中にも関わらず、「何という方だろう…。スゴイ…。」と感嘆せざるを得なかったが、一番驚いたのはラストシーン。

 私演ずる直実が敦盛の首を斬り、仏門に下るという所。表現として、敦盛が斬られた瞬間、布を使って敦盛の姿を消し、今度は消えた敦盛の代わりに死んだ直実の息子が目の前に現れジッと直実を見るという手法を使った。そして直実は静かに合掌し、最終的に鎧を脱ぎ捨てる所作をしつつ引き上げていくという所。

 このクライマックスを実際平氏の落人の子孫の方々(この村にはそういう方がいらっしゃった)の前で演ずるというのは、出し物が決まった段階から私自身相当悩み苦しんだ事であった。

 こんな若造(当時私は28歳)が、直実の苦しみ等演じて大丈夫だろうかと思っていたからだ。

 最後に奥に引き上げていこうとする両足が震えて歩く事もままならなくなっていた。
(鎧が50kgあり、それで激しい立ち廻りをしていたせいもあるのだろうが…。)すると私のままならぬ歩調に合わせ、H先生が『武蔵の国の住人~。熊谷直実~。』と声を出して下さったのだ。その声に後押しされるように何とかハケる事が出来た。

ざっつえんたイラスト32

 会場は有難い事に「ワッ!!」という歓声と拍手に包まれた。ショーは大成功だった。
終わってからH先生に、「有難うございます!先生が謡いをはめて下さったおかげで何とかハケる事が…。」

と、御礼を言うと、

「何言ってんの、違うわよ。私は順番通りにやっただけ。だから言ったでしょ。直実や敦盛の事を思ってやれば、ピッタリ合うはずだって、」

とおっしゃった。

 私は「この人には到底及ばないなあ。」と心の中でもう一度深く頭を下げた。

 

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[ 2013/06/03 00:00 ] ざっつえんた | TB(-) | CM(-)
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